ニュートンの神学論文 - 『ジョン・レノン対火星人』 part 3 「1章 すばらしい日本の戦争」
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こんばんは。
part 3 にして、ついに1章突入です。パチパチ。
「わたし」が一通の手紙を受け取とったところから、物語が始まります。誰からの、どんな手紙なんだろう。ドキドキ。妄想が突拍子もない方向へ広がっていきます。
アマゾンのダンボール開けるときとか、中身わかっててもなんかわくわくしますよね。
住所はなく、消印は「葛飾」、そして差し出し人の名前は、
「素晴らしい日本の戦争」
となっていた。
その手紙の内容はというと・・・
グッロ!! うわ、グッロ!!!
往年の鬱ゲーのワンシーンかのごとき猟奇性。
さて、それを読んだ「わたし」は、さすがというかなんというか、作家としての業なのでしょう、赤鉛筆を手に文章の分析を始めます。
いやあ、プロだなあ~。
わたしはそのハガキに厳密なテクスト・クリティックを施すことにし、そのハガキのテクストが意味すると思われるものを箇条書きにしてみた。
(1)筆者は「死躰」に興味があるらしい
(2)一人称の主語がない
(3)「死躰」の性器が隠されていることが強調されている。なにか重要なメッセージかも知れない
(4)誤字が一つある
(5)「死躰」には首がなかったり、顔をつぶされたりしている。これもなにか重要なメッセージを含んでいるかも
(6)「死躰」はリンチされている
(7)自殺ではないらしい
(8)念のために字数計算をしてみたら、一行目に題名、最終行に「了」を補えば原稿用紙二枚ぴったりだった。
(9)「体」ではなく俗字の「躰」を使っている。わたしと同じだ
(10)「子宮」の代わりに「雛人形」が埋められている。なんとなく意味深げなメタフォアのようなきがする
「誤字が一つある」?
・・・あ、ホントだ。「校門」のとこね。最初わかんなかったわ。反省。ちゃんと読まなきゃ。
わたしは以上の点から、このハガキの作者は次の誰かではないかと考えてみた。
(1)帝国主義戦争に反対する共産主義者
(2)表現の方法を模索する前衛作家
(3)ただのアホ
(4)E・T
(5)志賀直哉
(6)落合恵子
う~ん、E・Tでないことは確か。
おてあげだ! 寺田透なら、たった一行読んだだけで「これはアイザック・ニュートンの唯一の神学論文『自然における神の栄光』をボリス・ヴィアンが仏語に訳した『狂ったウンコ』をネルスン・オルグレンが英語に訳した『だれかさんとだれかさんがライ麦畑』の中公文庫版69ページから70ページにかけての文章である」ことだってわかってしまうのだが、わたしにはまるで見当がつかない。
ウソつけ!!(笑) なんかいろいろ混ざっちゃってるし。
これぜったいわかんないと思ってテキトー書いてますよね。
さて、「すばらしい日本の戦争」からのハガキは翌日も届きました。
分量こそ半分くらいに減っているものの、昨日のに負けず劣らずすさまじい内容です。
例によって「わたし」はテキスト・クリティックに勤しみます。
今回はちょっと趣向を変えて「リカルドウやカルヴィーノのように」キイ・ワードを捜してみた、と。
(1)~をもいで
(2)バーベキューの金串
(3)双生児
(4)加工
(5)掻きだして
(6)ままごと
以上のキイ・ワードから、作者を予想してみたところ・・・
(1)青森のリンゴ農民
(2)ミュンヘンのビール売り
(3)志賀直哉
(4)落合恵子
なんでだよ!!(笑)
さっきからしれっと出てくる志賀直哉と落合恵子はなんなんだよ!!
さて、「わたし」は、「すばらしい日本の戦争」が送ってくる手紙が、自分が書いているポルノグラフィーよりずっと素敵だったことにショックを受けてしまいました。
それから連日ハガキが届きます。
どのハガキにも「死躰」がたくさん出てくるのだそうです。
もうだんだんイヤになっちゃった。
それが十二日間続いたすえ・・・
そして十三日目にはハガキが来なかった。
十四日目にもやはりハガキは来なかった。
ついにわたしは「すばらしい日本の戦争」の攻撃を粉砕することに成功したのだ。
それですっかり元気を取り戻した「わたし」は、放置していた原稿を三日間で書き上げ、ご無沙汰だったパパゲーノとのチョメチョメにも精を出し、もうばっちり本調子です。
そんなある日、郵便ポストのなかにハガキが。
よっぽど破り捨てようかと思ったんだけれど、気まぐれがはたらいてちらっと読んでみた、と。
文面は一行だけ。
「お便り下さい」
そして今度のハガキには住所が書いてあった。
「東京都葛飾区小菅一~三十五~一
東2-2-23」
わたしにはわかった。本当にわかってしまった。なんてことだ!
その住所ならわたしも知っている。
わたしも三年間、そこに住んでいたのだ。
「すばらしい日本の戦争」の住所を、省略を補って正確に記せば次のようになる。
「東京都葛飾区小菅一~三十五~一
東京狗置所
東2舎2階23房」
え~ なにそれ~
気になる~~
想像と批判は両立し難いものなのだ。
いかにも名言! という感じの名言ですね。
とか言いつつ、高橋さんも作家やりながら文芸評論家やってるんですけどね。
そこらへんのいい加減さがたまんないっていうか。
まあそれは置いといて、なに言ってるのかよくわかんないけど、とにかくなんかすごいことは確かだ、みたいなことってありますよね。
この小説がまさにそう。
- 作者: 高橋源一郎,内田樹
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