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【会話で書評】日々に空想をミックス - 『アルタッドに捧ぐ』

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『アルタッドに捧ぐ』を読み終わったよ。

どうだった?

小説っていう表現形式でなんか新しいことをしてやろうっていう気概が、文面からヒシヒシと伝わってきた。

そういう系かー。前に薦められた筒井康隆の『ダンシング・ヴァニティ』みたいなやつだったら合わないかも。あれはおんなじ文が繰り返し出てきて退屈なだけだったから。

あれはまあ人を選ぶからなー。でもこれはそういうんじゃなくて基本動物モノのハートフルストーリーだから、退屈はしないと思うよ。

へー、でもそう聞くとよくありそうな構図だけど、どういうところが新しいの?

主人公が小説を書いてて、その小説の世界に入りこんでるんだけど、そこからガっと引き戻されて、その拍子に小説のキャラクターがいっしょに現実の世界についてきちゃうわけ。

そうやってついてきちゃったキャラクターは、もうフィクションじゃなくて現実なんじゃないの?っていうのがこの小説のテーマなんだけど、その世界観が斬新だった。現実なんだけど幻想的というか。

ふーん・・・ちょっと絵が浮かんでこないけど、ついてきたキャラクターはどんな風に現実で過ごしてるの?

トカゲのアルタッドは普通にペットショップで買ったコウロギとか食べるし、サボテンのアロポポルは庭に植えとけば育つ感じ。

なんか好きなyoutuberさんの動画思い出したわー。

www.youtube.com

ここまで聞くと、主人公は妄想癖か、精神病みたいな印象を受けるけど、やばい人なの?

そうじゃなくて、マジでアルタッドはいるの。亜希ちゃんも一緒に遊んだりするし。幻想的なんだけど、でもちゃんと現実っていう独特な世界観が広がっているわけ。本間がやばいっていうわけじゃなくて。
次に引用する一節を読めば、彼がいかにストイックかわかるよ。

机の上に散らばった下品極まりないゴシップ記事の数々を見ているうちに、彼は無性に腹が立ってきた。「恍惚の感覚に身を委ねずに書かれた文章など視界に入れたくもない。こんな文章を書くような奴らはみんな豚なんだ」


いやむしろやばさが際立ったわ!

大丈夫。こんなこと言ってるけど、基本的には穏やかで物静かなで余裕があるヤツだから。

ホントかなあ。

この小説って私小説的な側面もあると思うんだよね。作中で本間が大学院試験のためにフランス語を勉強するシーンがあるんだけど、著者の金子薫さんもフランス文学専攻されてたみたいだし。

本間さんの文学に対するアツイ思いは、金子さん自身のものなのかな。

で、在学中にこの小説が文藝賞を受賞したんだよ。見て、その時の選考委員のコメント!

「何故虚構なのか」という原点を描かんとする強度ゆえの真摯さ。期待の受賞。

藤沢周

私はこれを圧倒的に推した。もう断然こういう小説が好きだ。アルタッドが出てくるところは何度読んでも楽しい。主人公が書く小説が主人公の生きる世界の完全に外側にある、それが非常に独特な感じをつくっているのも書き手としての大きな資質だ。こういう小説は前例がない。

保坂和志

ときおり顔をのぞかせる、作者の意図せざる無邪気さがこの書き手の魅力。大きな可能性を開花させてほしい。

星野智幸

すべての候補作品に登場する人間たちを差し置いて、アルタッドが一番キュートで魅力的。描写力のたまものだろう。

山田詠美


おお、今回もうこれ載せるだけでいいんじゃ・・・

真理やめーや。

で、本間を見守ってくれる、本間の大学時代の恋人の亜希って人がいるんだけど、恋人でも友達でもなく「大学時代の恋人」っていうのがミソ。
「恋人」とか「友人」とかっていう既存の関係じゃなくて、「本間と亜希の関係」としか言えないような、独特な距離感って言うかなんていうか。

本間は赤ワインを二つのグラスに注ぎ、片方を亜希に手渡してから言った。

「いや、ごめん、間違えただけ。つまり、俺が言おうとしたのは、働いてみて初めてわかることがある、という考えには反対だってことなんだ」

「はいはい、わかったわ。もう一回乾杯しよう」


仲は良いんだけど、恋愛描写っぽいところがなくて、個人的にちょうどいい距離感なんだよね。

幼馴染とかが関係性として近いのかな。

あとはトカゲのアルタッドなんだけど、こいつがとにかくカワイイんだよね。

どうやら眠いようで、アルタッドは頻繁に瞼を閉じるのであるが、そのたびに何かを思い出したかのように目を見開き、あたりの様子をきょろきょろと窺うのであった。


あら可愛い。眼に浮かぶよう。

主な登場人物は登場人物はこれだけ。もう基本的に一対一の関係なわけ。そうするとお互いに腹を割って話すことになるでしょ? 影の薄い脇役がいなくて、濃い関係性がちゃんと描いてあるのも、この作品の魅力だと思う。

なるほど。

もう一つ魅力をあげると、本間がひとり孤独に、小説を書くとはどういうことかとか、生きるとはどういうことかとか、っていうことを本間が考えていくの。こう言うと陳腐に聞こえるかもしれないけど、ありふれた答えのない問題に正面から向かっていくわけ。それでもがいていくんだけど、もうそのが姿がアツイのなんの。

スポ根的なおもむきもあるわけか。

んー、まあちょっと違うけどだいたいそんな感じ。

魅力をまとめると、
・幻想と現実の間でフワフワしてるような、独特な世界観。
・少数の登場人物の一対一の関係性が申し分なく描かれているところ。
・ありふれた答えのない問題に正面から向かっていくアツい展開。

純文学っていうから身構えちゃったけど、こうみると題材は馴染み深くて読みやすそうだね。

作家志望の人が読んだら、きっと本間くんに励まされるんじゃないかな。

アルタッドに捧ぐ

アルタッドに捧ぐ

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