【会話で読書感想】もはやエンタメの到達点 - 『クリスマスのフロスト』
ねえ、お前今何歳だっけ?
え? えっとねえ26・・・ってお前双子なんだからわかるだろ!! お前と同じだよ!!
26かー、考えてみるとあっという間だよね。高校行ってた頃が昨日みたいだもん。
そうだよなあ、特に最近は時間が過ぎるのが早い気がする。
そうそう。知ってる? 歳取っていくと、だんだん年月が過ぎるのが早く感じるようになるらしいよ。
そうなんだ。じゃあ俺らは実質、人生半ばくらいなのかもね。
そういうスケールで考えると、1、2ヶ月の違いなんて誤差みたいなもんだよね。
ん? ああ、まあ捉え方によってはそういえなくもないかなぁ。
というわけでほぼクリスマスシーズン真っ只中の今日此頃に最適な本、『クリスマスのフロスト』を紹介していくぜ!!
いやおせーよ!! 2月をクリスマスシーズンと言い張るには無理があるわ!!あと「ほぼ真っ只中」ってなんだよ!!
この作品の魅力はずばり、エンタメ作品としての総合的な完成度がめちゃくちゃ高いことだね。
もう始まってんのかよ!! まあきくけど!!
他と違うことをしてやろうとか、突飛なことをして当ててやろうというような、人を選ぶ感じとは真逆で、おもしろさの安定感が抜きん出てるんだよね。誰が読んでも楽しめるし、どこを読んでてもずーっとおもしろい。
へえ、誰が読んでもか。この本、この作家の処女作でしょ。そういう安定感を出すのって長年の経験が物を言うと思うんだけど、それが本当なら天才だね。
実はこの人は脚本家をやってて、完全な初心者というわけじゃないんだ。でもだからなのか、この本も映像がまるで眼に浮かぶ感じで、あんまり小説を読み慣れてない人でもTVや漫画みたいな感覚で楽しめるんじゃないかな。
でも、これだけすごいシリーズ作品を書き続けるんだからやっぱり天才なのは間違いないよ。『週刊文春ミステリーベスト10』っていうランキングがあるんだけど、歴代フロストシリーズの順位がこれ。
- 1作目「クリスマスのフロスト」:第1位
- 2作目「フロスト日和」:第1位
- 3作目「夜のフロスト」:第1位
- 4作目「フロスト気質」:第1位
- 5作目「冬のフロスト」:第6位
- 6作目「フロスト始末」:第2位
うわほぼ1位じゃん!!
そうなんだよ。6位が「あれ?」と感じるのは錯覚だからね。10位以内に入ること自体がすごいから。フロスト始末に至っては別のランキングで1位だし。こんなシリーズ他にないよ。
すげえなぁ。でも、何がそこまでこのシリーズを人気足らしめてるの?「総合的な完成度」ってなんか漠然としてていまいちピンとこないんだけど。
まずは個性豊か過ぎるキャラクターの面々だね。
- 人間臭くて、下品なギャグを隙あらば滑り込ませてくる、主人公のフロスト警部
- 能率主義の権化で、フロストと同じ警部のアレン
- 気のいい部長刑事のアーサー・ハンロン
- 愚痴ってばかりいるけどそれがユーモラスな万年巡査部長のウェルズ
- ロンドンからやってきた新米エリート刑事で、今作フロストの相棒を務めたクライヴ
- 上昇志向に凝り固まった俗物ぶりを遺憾無く発揮する、署長のマレット
キャラクターが魅力的な作品にハズレはないでしょ。
確かに。
次に、感情の高低差。バカらしいところはとことん下品に、シリアスなシーンでは何が正しいかを本気で考えさせられる。めちゃくちゃ人間臭いフロストが自分の考えに本当に正直に行動するから、その両方が破綻なく成立する。だからリアリティがあるんだよ。
否定の前に「一理あるかもな」と思わせてくれるんだね。
で、全く中だるみさせないストーリーテリング。特別奇をてらったり、近年よく騒がれる『衝撃の事実』みたいなものがなくても、これでいいんだよ!!と膝を打つことになるよ。
なるほどなー。でも今挙げたことってある意味、初心者向けってことにならない? お前ミステリーよく読んでるけど、物足りなさとかは感じなかったの?
ミステリーのおもしろさにもいろいろあるんだよ。確かにこれを本格ミステリーとして評価することはできないだろうね。
この作品はミステリー的には「モジュラー型警察小説」っていって、時間差攻撃みたいに事件が次から次へと起きて、それを刑事が追っかけていくような形を取ってるんだけど、この本はその王道みたいな作品で、その一つ一つの謎が、ページをめくる手を止めさせないんだよ。「やめどきがわからない」とはまさにこの本のためにあるのか、という感じ。
まあミステリーを話出すと長くなるからそれは今度語るとして、この本の良さをまとめると、
- 映像が眼に浮かぶような描写の巧みさ
- 個性豊か過ぎるキャラクターの面々の掛け合い
- 感情を大きく揺さぶってくる、バカバカしさと感動の高低差
- 全く中だるみしない話の構成
- 隙あらば滑り込ませてくる、メモしておきたくなるようなフロストのギャグの数々
強いて言うなら、島田荘司さんや綾辻行人さんの作品を読んで、「ミステリーに目覚めた! ガチのパズラーで謎解きしたい!!」って人には向かないかも。
それ以外の全ての人類はぜひ手に取ってみてね!!
- 作者: R.D ウィングフィールド,R.D. Wingfield,芹澤恵
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1994/09/21
- メディア: 文庫
- 購入: 7人 クリック: 275回
- この商品を含むブログ (79件) を見る
本書を手に取り、「序章、日曜日」を読まれた方はこちら!