水曜日 5
フロストとクライヴが司祭館に到着。一目散に、トレーシーが発見されたとされる牧師のフォト・スタジオに向かいます。
そこには、・・・やはり、トレーシーの遺体がありました。
なんでこんなところに。ここは一度フロストとクライヴが探しましたが、あったのは大量の本や写真だったはず。深く埋もれていたのを単に見落としたということでしょうか。
マレットの小言をそっちのけでトレーシーを検分してみると、コートに大量の猫の毛が。
猫の毛? これはもう決まりです。
2人はマーサ・ウェンデルの宅へ向かいます。
門や扉をぶち破って乗り込みました。
マーサはこうなるのがわかっていたのか、素直に自供します。
動機は猫を殺されたため。トレーシーが、子供にありがちな残虐性を発揮してしまったんですね。
フロストの捜査は惜しいところまではいっていたようですが、今まであと一歩のところでマーサに先を越されてたと。
フロストの直感は当たっていたわけですね。
しかし、んー、なんとも残念な終結ですねー。
水曜日 6
マーサ、ベル牧師とその奥さん、アップヒル夫人、クライヴと、現在の様子が移っていきます。
クライヴ以外は陰鬱な感じですねー、そりゃそうですが。ですが、複雑に絡み合っていた彼らの謎がようやく解けたわけです。クライヴも充実感の中で、ヘイゼルと時間を共にしているのでしょう。
と、そこへドアを叩く音が。
「いるかい、坊や?」
くそいまいましいフロスト、度しがたい間抜けで、救いようのない役立たず。
ちょっと言い過ぎだろ(笑)
タイミングがタイミングですから気持ちはわからなくもないですけどね。結局今までバカにしていた「フロストの勘」が正しかったのがわかったわけですから、もうちょっと尊敬しても。
しかし、フロストが下手に出ると、同情心をくすぐられたのか、なんだかんだでちゃんと応対します。根はいいやつなんですよ。
で、車に乗り込む。どこに行けばいいか尋ねると、パウエル宅へ行けと。なんとこれから忍び込むつもりだといいます。一体どういうことでしょうか。
っとー!! ここで伏線回収!
「
火曜日 6」の最後で若手記者がコメントを要求したのは「当時の」支店長だったんですね。ハドソンではなく、パウエルだったわけです。
言われてみれば、「
水曜日 1」の最初でハドソンに取材した時、普通に対応してくれましたもんね。
パウエルは新聞が発行される前から、記者の電話でフォーカスが掘り出されたことを知っていたはずなのに、「新聞を読んで初めて知った」と嘘をついていたわけです。
彼は不可解で明確な嘘を付いていた。しかも容疑者は彼ひとり。・・・ただし証拠がない。
だから強行手段として自宅に忍び込み、決定的な証拠を掴んでやろうということですね。
どうしても疑問を解消させたい。しかし、アレン警部に指揮権が移ってからでは、何をするにもいろいろと不都合が生じます。なので明日までにどうしても手を打つ必要がある。
そのためにはこうするしかないですね、確かに。
・・・失敗する気しかしません。
門をギシギシと音を立てて開け、ザクザクと雪の上を進み、うっかり牛乳瓶を蹴飛ばして音を立てます 笑
しかし家主が気づいた気配はありません。ここまではセーフ。
フロストの緊張感が紙面から伝わってきます。
なんとかして窓をこじ開けて中に侵入。この時も盛大に音を立ててしまいます。
意識の片隅で小さな声が、”危険”ということばを何度も囁いていた。フロストは振り返った。開け放った窓が、ささっと逃げ出せとそそのかしているように見える。ささっと車に戻り、家に帰ってベッドに潜り込んでしまえ、と。
(中略)
が、フロストはそれを無視した。それに、引き返すには遅すぎた。
覚悟は決まっているようです。
目当てのライティングデスクの引き出しをこじ開けると、・・・中は書類の海。とてもこれだけの中から証拠となるものを探し当てるのは無理そうです。
本当にやれるだけのことはやりました。それでも結果が伴わないことはあります。今回は引き返すことにしました。
その時。
部屋の明かりが点きました。パウエルがドアのところに立っています。
フロストはオーヴァーコートの中で縮み上がった。弁解の余地はなかった。(中略)これはもう立派な現行犯だった。
フロストは今後の身の振り方について思いを巡らせます。どうせなら今夜のうちに辞表を書こうか・・・
しかし。
次の瞬間、フロストは眼を剥いた。まるまる一泊分、鼓動が止まったような気がして、それからいっきに活力が蘇ってくるのを感じた。
パウエルの左手に、ルガーのオートマティックが握られていたのだ。
フォーカスやガーウッドが撃たれた銃と同じ型のものです。状況証拠としては一級品。
フロストは打開策を講じるため、思い切って直接的にきいてみます。
「その銃で、ふたりの男を殺したんですね」
様子から一瞬当てが外れたかと思いましたが、パウエルは自供をはじめました。
- 息子の返済のために、今度はパウエルが自分の顧客の金に手をつける。
- 息子は金を借金に当てていなかった。
- 1と2を繰り返し、ついに息子の無心を断る。
- 息子が自殺。フォーカスに不正がばれ、ゆすられる。
- 顧客が亡くなり、資産整理のために近々不正が公になることになった。
- ハリントンが現金を都合してほしいと連絡してきた。フォーカスから金をせしめる計画を持ちかけられ、それに乗っかる。
こういうことだったようですね。
で、計画というのが、
- フォーカスは腕に現金ケースを繋げた状態で、何も知らないガーウッドと現金輸送に出る
- あらかじめ用意していた障害物のために、ガーウッドが車を止める
- ガーウッドの気をそらして後ろから気絶させる
- パウエルは車で火葬場に向かう途中、現場に寄り、フォーカスの腕の鎖を壊し、ケースを開けて、と一緒に道脇に捨てる(その間現金はずっと銀行)
- パウエルはすぐに火葬場に向かう列に戻る。
パウエルのアリバイは完璧ですね。しかもガーウッドという証言者も獲得できます。本格ミステリーでは共犯がタブー視されているのですが、その理由がよくわかりますね。
しかし、計画通りにはいかなかったわけです。フォーカスが死んでますもんね。
パウエルがケースの鍵を忘れて来ていました。ケースが開いていなければ、強盗とみせかけることができなくなります。
計画の成功が危ぶまれた時、共犯者の存在は命取りになります。その判断があってかどうかわかりませんが、パウエルはとっさの判断でフォーカスを撃ち殺したと。
で、先日現金ケースが掘り出されました。ケースがカラだったことをガーウッドが知れば、そこから自分に足がつくかもしれません。それで先手を打って殺した。
全てを話し終えると、パウエルはフロストに向けていた銃口の引き金を引きました。フロストは倒れます。
ここで、本書の冒頭に繋がるわけですね。
パウエルは警察に電話し、自分が強盗に襲われる小芝居を打ちます。
全ての謎が解けて、ここで終章。
今までの謎が一気に解かれました。そんなところも伏線だったのかーというのがいくつかあって、やられたなーという感じです。
で、フロストはどうなるんでしょうか。
木曜日
エピローグ。
事件を乗り越えて、事件に関わった人々は流れに身をまかせています。
パウエルは銃の証拠能力を見誤り、逮捕されたとのこと。ミスが高じて事件を複雑にしていただけで、本質的にはドジということでしょうね。
フロストが一命を取り留める確率は、五分五分以下と見なされており、おそらくは、最後まで持ちこたえらないだろうと予想されていた。
だが、フロストは、数字が絡むことはとにかく苦手で、他人の予想を裏切ることが何より得意な男だった。
これ以上語るのは野暮ということでしょうか。
「警部、わたしは自分のためにあんなことをしたわけではない。あれは息子のためにしたことだ。息子は確かに弱い人間だった。詐欺師まがいのこともやっていた。しかし、戦争中は英雄だった。勲章を授けられるほどの英雄だったのだ。家内もわたしも、どれほど鼻が高かったことか。息子はわたしたちに親としての誇りをくれた。だから、わたしも息子のしたことをすべて許した」
(中略)
「勲章なら、おれも貰った」
パウエルの息子は、「
火曜日 6」で登場した、老婦人を車で跳ねてしまった少年とは対照的です。
あの少年は、自分の罪を正直に告白し、誠実に心を痛め、処罰を受けることになります。
パウエルの息子は、追い詰めれらた末に自殺しました。
正しい行動とはなにか、というのは難しい問題ですが、その行動をすることでどうなるのかを考えるより、その行動は自分の本質的な価値観に沿っているのかを考えると、振り返った時に胸を張れるのかなーと思いました。
さて、本書の実況はこれで終わりです。最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!!!!